春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「意味が分からないわ」


私も、と頷いた。

りとがどういうつもりで来て、神苑の人を蹴ったのかは分からないけれど。


「(ねえ、聡美、)」


眉根を寄せている聡美の腕を引き、パクパクと口を動かした。

振り向いた聡美は、私に突きつけられたスマホの画面を見て、大きく目を見開く。


―――諏訪くんは、あの男子生徒を助けていたよ。

そう画面に打ち込んだ。


「……でも、アイツは死神で、関わった人間は神苑のやつらに制裁を下されるって……」


「(そうだとしても、)」


聡美が言いたいことは分かる。

平穏な学校生活を送りたいから、権力者である神苑に逆らってはいけない。

諏訪晏吏とは関わってはいけない。

一般生徒なら誰もが思っていることだ。

でも、その神苑から一般生徒を助けてくれたのは彼だ。

私だって、助けてもらったことがある。


【諏訪くんは悪い人じゃないと思う】


「柚羽……」


不安げな顔をした聡美を安心させるように微笑んだ。


私はこの目で見て、この耳で聞いたものを信じたい。

諏訪くんは悪い人なんかじゃないのだと、信じてあげたい。

これは綺麗事なのかな。
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