春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
* * *



ああ、やっぱり。

やっぱり、雨が降り出した。


駅の近くの大通りの手前で聡美と別れた私は、雨雲が泳ぐ空を見上げた。

今朝はたまたま天気予報を見なかった。

昼休みに中庭でお昼ご飯を食べた後、雲行きが怪しいなとは思っていたけれど。

はたはたと地に落ちていく雨を眺めながら、小さなため息を吐いた。


こうしていても時間が過ぎていくだけだ。

駅まで走り、家の最寄駅でお母さんに電話をしよう。そう思い、意を決して一歩踏み出した瞬間、誰かに腕を掴まれた。


「(っ!?)」


「―――傘、あげる」


弾かれたように背後を振り向けば、そこには諏訪くんが居た。

透明なビニール傘を片手に、妖艶に微笑んでいる。


「(諏訪、くん)」


「うん、なあに?」


見知らぬ人間でなかったことに安堵した私は、ほっと胸を撫で下ろした。

また神苑の人に待ち伏せをされていたのか、と思ってしまったから。
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