春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「(さ、とみちゃん…!?)」
全速力で走る聡美につられ、私も後を追うように足を動かした。
そのせいで、伝えたい言葉を伝えることが出来ない。
さっきの男性は誰なの?
聡美とはどういう関係なの?
あの人が言っていた、暴走族ってなに?
聞きたいことが、たくさんあるのに。
走って、走って、走った先で。
ようやく足を止めた聡美は、真っ青な顔で口を開いた。
「さっきの…男は、神苑の元メンバーで、幹部だったの。私たちと同じ2年生。名前は、諏訪 晏吏」
スワ アンリ、と聡美は言った。
聡美は唇を震わせながら、音を乗せていく。
「柚羽ちゃんが転校してくる前、アイツに関わってはいけないって、神苑の総長が言ったの。破ったら、制裁を下されるから」
「(せいさい?)」
またも、私の言葉は音になってはくれない。
彼女には永遠に聞こえないまま、熱を孕んだ風によって掻き消される。