春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
そんな私を見て、諏訪くんは笑っていた。
私が濡れないように傘に入れると、傘の持ち手をやんわりと手に握らせてくる。
「はい、あげる」
そう言うと、傘の外へと身を投じてしまった。
「(え、あ、そ、それじゃあ諏訪くんが濡れちゃうよ…)」
慌てて返そうとするも、諏訪くんは私よりも遥かに背が高くて、背伸びをしても差してあげることが出来なかった。
彼はクスクスと笑いながら、私の唇に目を向けたまま口を開く。
「いーよいーよ。いらないもん」
要らないって、雨なのに。
この空模様じゃ、これから激しくなりそうなのに。
「(諏訪く、)」
「申し訳ないと思うのなら――…」
瞬きをした瞬間、傘の外へと行ってしまったはずの諏訪くんの顔が目の前にあった。
初めて至近距離で彼を見た私は、不覚にも胸を高鳴らせてしまった。
諏訪くんは、りとに負けず劣らず綺麗な顔をしていたのだ。