春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
翌朝、昨日の男性の容体が気になって仕方がなかった私は、学校の支度を終えた瞬間に家を飛び出した。

あの場所に居るとも限らないのに、朝一で握ったおむすびと使っていないタオルを持って。


もし、まだあの場所に居たら。
温かいご飯と清潔なタオルを渡してあげたい。
怪我の具合を確認して、酷いようだったら病院に連れて行ってあげたい。

傍から見たらお節介なことかもしれないけれど、放っておけないのだ。

同情とか、善意とか、厚意とかじゃない。

何て言葉で表せばいいのか分からない。そもそも、このエゴのような気持ちを、言葉にしていいのかすら分からない。


「(―――っ…!!)」


そこは、昨日と同じ場所。

雨上がりの空から降る、眩い光が作る木陰。

伸びた影に同化するかのように、彼は木に凭れていた。


「(居た……)」


毛先だけが赤黒い、金の髪。

漆黒のシャツとズボンは所々切れていて、露わになっている肌は腫れていたり、血がついている。
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