春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
頭を拭き、怪我の具合を確認した私は、学校へ行こうと腰を上げた。

私は医者ではないから見た目で判断することしか出来ないけれど、怪我のほとんどは擦り傷や殴られた痕だった。

学校から帰った時もここに居たら、保冷材や湿布を持って来よう。

その時は身体を拭けるように、濡らしたタオルも持って来なければ。


「(それじゃあ、私はこれで…)」


「待て」


踵を返そうとした私を、彼は呼び止める。

行かせないように、私の足首を掴んでいた。

とても、弱々しい力で。


「…すまない」


申し訳なさそうに謝られた。

それは昨日の手当てのことなのか、タオルのことなのか、おむすびのことなのか。

首を傾げれば、とても真っすぐな瞳を向けられた。


「(あ、の…?)」


もう一度腰を下ろせば、足首を掴んでいた手を離された。

怖いけれど、ほんの少し勇気を出して、目線を合わせてみる。

すると、驚くほど綺麗なグリーンアイと視線が交差した。


「…昨日、俺に傘を差してくれただろう…?その傘だが、目が覚めたら、無くなっていた」
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