春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「私は、諏訪がどんな奴かなんて知らない。何が神苑の怒りに触れて、どうして追放されたのかも知らない。けれど、これだけは知ってるわ」
聡美はゆっくりと顔を上げ、大きな瞳を揺らしながら、言葉を紡いだ。
「諏訪晏吏は、死神。シニガミって呼ばれてるのよ」
「(っ…!)」
さっきの男性は予想通り、危険人物だった。それだけでなく、暴走族とやらの元メンバーで。
暴走族の幹部がどんな位置にあり、どのような役割を果たしているのかは分からないけれど。
言葉の意味通りなら、長を補佐する立場にあるはず。
「(…そう、なんだ…)」
暴走族なんて、今の時代は居ないものだと思っていた。
だって、夜に騒音を響かせながらバイクを走らせるなんて、警察に捕まってしまうでしょう?
そんなことをして何が楽しいのかなんて分からないし、何のためにやっているのかなんて分からない。理解しようとも思わないし、理解したくもない。
けれど、これだけは言える。
この学校にとって、私がやって来たこの場所には、権力者がいるということ。
一般生徒に恐怖を与えるほどの、強大な存在が。