春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
何を言われるのだろうと思っていれば、傘のことだった。

昨日彼に差し掛けた、諏訪くんの傘。
どうやら彼はそれを失くしてしまったらしく、申し訳なさそうに眉を下げていた。

目覚めたら無くなっていたということは、夜中に強風が吹いたりして飛んで行ってしまったのかな。


「…本当にすまない。あれはいくらなんだ?払わせてくれ」


至極真面目な顔で値段を訊かれた私は、思わずふっと笑みをこぼしてしまった。そんな私を見て、彼は首を傾げている。


「(ごめん、なさい)」


「ん…?」


だって、金髪にグリーンアイ、黒い服。
見るからに怖い人が、ビニール傘を紛失したことを詫びているんだもの。

想像もつかないことを言われ、思わず笑ってしまったのだ。


「(気にしないでください)」


あれは人のもの。諏訪くんが貸してくれたもの。
返さなくてはならないものだけれど、失くしてしまったのならしょうがない。
というか、そもそも借りたものを他人に貸してしまった私が悪いのだ。
新しいものを買って、謝ろう。
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