春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「(傘は、私が弁償しますから)」
「ん?ベンショウ?勿論する」
「(そうじゃなくて、)」
ああ、駄目だ、伝わらない。
口パクではなくて、スマホに文字を打ち込めばよかったかな。
いくらなんでも、初対面の人に口パクはまずかった。反省しよう。
「(えっと、)」
スマホを取り出そうと、鞄の中を弄る。内ポケットと外ポケット、どちらに入れたっけ。それとも制服のポケットかな。
ガソゴソと探し物をする私を、彼は終始面白そうに眺めていた。
「(…あった!)」
そうしてスマホを発見した私は、メモ帳のアプリを開いた。
その傘のことなら気にしないでください、と打ち込んでいく。
ふと、強い視線を感じた。そろそろと視線を動かせば、最後の四文字を打ち込もうとしている私を、彼はジッと見ているのだ。
「(あの…?)」
彼は口元を綻ばせた。
痛々しい傷が目立つけれど、モデルや俳優に負けないくらいに、端正で綺麗な顔立ちをしている。