春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
* * *

どこからか、笛のような音が聞こえた。

お祭りやクラッシックのコンサートで耳にするものとは違って、風や雨の音のように、奏者がいないようなもの。

優しくて、温かい。けれど、とても哀しげで、儚げで。

そんな音が、この耳に聞こえてきたのだ。


ふと、音が止んだ。

それと同時に瞼を上げれば、夕闇色の世界が視界に飛び込んできた。


『―――柚羽…』


ふわりと吹いた風に乗ってきたかのように、あの青年が現れる。

ああ、また、だ。

また、君の夢をみている。


『柚羽…』


夢だと分かっていても、吸い込まれてしまいそうになる琥珀色の瞳が、真っすぐに私を射抜く。

心なしか、私と彼の距離が縮んでいるような気がした。

前はもっと遠かったのに。その前は、もっともっと遠かったのに。

今は、手を伸ばせば触れられるくらいに、君は―――


『柚羽、俺は言ったはずだ。こっちに来ては駄目だ、と』


『え……?』
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