春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「(どうしたの?)」
そう問えば、呆れたようなため息を吐かれた。
「…どうしたの、じゃないよ。朝からずっとぼーっとしてるから、声を掛けただけ」
ああ、と苦笑を漏らした。言われてみればそんな気がする。
今日は窓の外の景色ばかり見ていたから。
「(考えごと、だよ)」
「…ふぅん」
本当に、考えごとをしていたんだ。
窓の外を見つめる度に、寂しそうに笑うあの人を思い出すの。
私の名前を呼ぶ声が聞こえる気がするの。
琥珀色の瞳の人を。
「(…あの、りと、)」
「なに?」
なんとなくだけれど、りとなら知っているんじゃないかって思った。私の夢に出てくるあの人のことと、先週空き地で出逢った黒い男の人のことを。
「(りとは私のことを知っているんだよね?)」
「…まぁ」
「(だったら、琥珀色の瞳の人、知らない?あと、長い金髪で、黒い服の人)」