異世界トランスファ
いつになく真面目な顔をしている。


「俺は怒っている」


「・・え」


肩を掴まれまっすぐ見つめられる。


「俺もナギと一緒。お前が勝手に決めた事を怒ってる」


「あ・・・」


「身を売りに行っている様に見えた」



そうだね。

確かにそうだ。


「ぶっちゃけると、俺はセンリもトキワも全然信用してないし。
お前の傍にいたいからトキワの側近になったふりしてる」


「え?そうなの?」


この話聞かれたら速攻で牢屋行きだと思うんですけど。

ビクつきながら、私は指をしーーーって口にあてた。

あんまり大きな声で言ったらまずいヤツよねそれ。



「センリが胡散臭いのは昔からだけど、トキワだって何考えてるか一番わかんないぜ俺は」


「ギン・・」


「お前がセンリの思惑通りに動いたことに、俺は憤りを感じてるんだ」


「それは・・・ごめん」


それには素直に謝った。

せっかくギンとナギとカサネさんが私を助けてくれたのに、それを台無しにするところだった。

でもツカサさん達の事もあったし、最善かと思ったんだもん。



「皆の力になれるならって。思って・・」


「いいヤツになろうとすんなよ。つけこまれるだけだ」


「でも、人に優しくしていたいし信じたいのはいけない事なの?
いつも疑いの目で人を見る事なんて私には出来ないよ」


「まあ、それがお前のいいところなんだけど・・」


「昔からそういう性格なの。・・ごめん」


「うん、知ってる」


ふんわり

と、ギンは私を抱きしめた。

傷をいたわってか、いつもみたいに感情的じゃない。

とっても優しい。



「もっと、俺を頼れよ」


「ギン・・・」


「いつも傍にいるのに・・信用ねえのかな」


「そんな事ない」


いつもはウザキャラの癖に。

やけに真面目な顔してる。

そしてやきもちを妬いたような顔で言う。


「なあ、まだセンリの事が好きか?死ぬほど好きか?」


「え・・」


突然何を言い出すかと思えば。

もしかしてセンリが帰ってきたから?私が泣いて喜んでたから?


「俺より好き?」


笑える。いつも誰かと張り合ってるこの人。


「・・教えないよそんな事」


「教えろよ」







教えないよ。


今この瞬間、ギンに抱きしめられてる事が安らぎになってるなんて。

抱きしめられた瞬間に不安が全部吹っ飛んで、心が軽くなった気さえするなんて。

恥ずかしくて言えない。
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