異世界トランスファ
静かな時間を過ごした後、トキワ様はいつも通りに政務の仕事に戻っていった。


「はぁ」

トキワ様の部屋を出て、ため息をついている私にナギがつっつく。


「どうしたんだよ?ちゃんと言えたのかよ」


「う、うん・・言えたには言えたんだけど・・」


別の問題が発生したなんて。

私はあった出来事をナギに全部話した。

真っ黒なドラゴンに殺されそうになった事を。



それには少しナギも青ざめていた様だ。


「マジかよ・・我を忘れるって・・自分が知らないうちに世界滅ぼす可能性があるって事だろ?」


「うん、そう言ってた」


ゾクっ

と勝手に鳥肌が立つ。


目に焼き付いて離れない、真っ赤な瞳、漆黒の体。

殺されなかったのは本当に奇跡だったのかもしれない。


「私が・・・抱きしめたら治ったって言ってたけど・・」


「それはトキワがお前を好きだからだろ?・・ギンのヤツ危ねぇかもな」


「う、うん・・・」


ナギの心配に胸がきゅっと痛くなった。


「トキワはまだギンとの件許してねえんだろ?殺されるかもしれねえ」


「・・・うん」


確かにその通りだ。

でも逃げ出す事も出来ない。


「まぁ俺からも気を付ける様にギンに言うけどよ・・ヒオリがうまくやるしかねえな」


「うまくって・・どうやって」


「バレずに二股」


「ば、馬鹿ナギ!何言ってんの!!出来る訳ないでしょ!命がいくつあっても足りないわ!!」


「ハハ、悪い悪い」


「もう・・」


勝手にため息が出ちゃう。

どうしたらいいのか自分でもさっぱり分からない。

私は単純にギンが好きなだけなのに。

その気持ちに従った結果で危険になってしまうなら・・私の気持ちなんて捨てなければならない。



だって、ギンが危険な目にあうのは絶対に嫌だ。


「でもよー。その話をしても死んでもお前を離さねえかもな。ギンのヤツはヒルみたいにしつこいから」


「例えがキモイよナギ」


暗く落ち込んだ私をナギは懸命に慰めてくれた。


「ヒオリ、しっかりしろ。お前には俺もいるし、仲間がいるんだから。相談は全部乗る」


「え・・」


なんて頼もしいんだナギ。

急にどうしたんだ、人が変わったように。

王子に目覚めたのか。



「ナギ、ありがと」

「おう!最後に笑うのは俺だ」

「はい?」


グシグシとナギは私の頭を撫でた。

まるでギンみたいに。

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