ヒロインの条件

佐伯さんがすぐ後ろに立っている。顔がうわーっと熱くなる。佐伯さんはTシャツにデニムの格好で、髪は手ぐしで梳かしただけだ。

「野中は、どうも考えていることが口からぽろっと出ちゃうタイプだな」
「はあ……」

恥ずかしくて仕方がない。私ってこういうキャラだっけ? 反応がまるで女子みたいで、自分自身で戸惑ってしまう。佐伯さんの言葉で、女の子になってしまうのだ。

火照る頬を押さえながら、エレベーターで一階に降り、扉が開くと、ワッと冷気が押し寄せてくる。冷蔵食品の近くにエレベーターがあるのだ。

スーパーはさすが品川で、高級な雰囲気がある。見たことのない種類の缶詰や、料理番組でしかみたことのない野菜などが並んでいる。

「さ、どうしよっか」
佐伯さんがカゴを持って尋ねてきた。佐伯さんとカゴって似合わないけど、でもそのギャップがイイ。傍目からみたら、やっぱり新婚さんに見えたりするのかな?

「お惣菜じゃつまらないから、切って炒めればできますっていうヤツ買う?」
「そうしましょう。私、切れませんけど」
「俺も切れない」

二人で顔を見合わせて自然と笑みがこぼれる。

「なんとかなるよ」
そう言って佐伯さんが笑った。

スーパーの通路を歩きながら「佐伯さん」と話しかけた。
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