ヒロインの条件
「でも……流石に停電が長すぎませんか?」
私は、一向に電気がつかない部屋にしびれを切らした。「霊現象だったらどうしよう」
「まだ二三分だよ?」
佐伯さんはぐるりと部屋を見まわして、それから「ブレーカー見るか」と立ち上がった。
「ああ、置いてかないで」
私は佐伯さんにくっついて、佐伯さんの作業ルームへと入ったが、その場所に本当に驚いた。部屋がキラキラしてるのだ。
佐伯さんのスマホが照らすその部屋はまるでマシンルームで、パソコンとも違う機械がラックの中にぎっしり詰まっていて、そこだけは停電していないらしくライトが明滅していた。そこからたくさんのケーブルが出ていて、大きな机にあるモニタ三つにつながっている。クーラーがガンガンに効いていたのか、他のどこの部屋よりも寒い。
「電気ついてますね……」
私は佐伯さんとはぐれないように、触れるか触れないかギリギリのラインまで幅を詰めている。
「非常時の電源つけてるから。でもこの停電はこのせいかな。逆流したかも」
私は佐伯さんの言ってることが全然わからない。もうなんでもいいから、早く電気を復旧させて欲しい。
佐伯さんはラックの後ろを覗き込んで、スマホの明かりを頼りに何やらごちゃごちゃしていたが、結局「サポート呼ぶかな」と諦めて出てきた。
「じゃあ呼びましょう!」
直る方法があるのなら、ぜひぜひ直していただきたい。
「コールセンターは朝の9時から」
佐伯さんがふうとため息をついて、腰に手を当てる。真っ暗な中で、頼りになるのはスマホの明かりだけ。