ヒロインの条件
鈴坂さんは面食らったような顔をして「なんで知らないのよ」と言った。
「社長宛に電話がかかってきたら、秘書室に回せばいいんだからね」
私は配置図のすぐ脇に置かれた『佐伯日向』と書かれたナプキンを、そっと手の平で隠す。その手がかすかに震えているのが自分でもわかった。
いやでも……別人っていう可能性も……あるよね。
私はごくんと一回唾を飲み込んで、配置図に目を戻した。配置図の一番上には『社長:佐伯日向』と書かれている……予想だにしなかったので、最初まったく目に入ってなかった。
どうしよう、うそでしょ?
訝しげな視線を感じて、私は慌ててニカッと笑って取り繕った。でもその間も頭の中には嵐が巻き起こっていて、何をどう考えていいのやら、まったくわからない。
なんで私、知らなかった? 社長って、おじさんじゃなかったっけ。
沸き起こる好奇心をなんとかなだめて、配置図をしまい仕事の準備をし始めると、鈴坂さんは納得いかないというような顔をしながらも自分の席へと戻っていく。
本当に社長? 確認したいよ〜。