ヒロインの条件
「今かけちゃだめなんですか?」
「24時間サポートに入ってないからさ。個人の趣味にそんなサポートいらないだろ」
「今いります! だって朝まで真っ暗ってことですよねっ」
「夜は暗いもんだよ?」
もうっ! こっちの気持ちを全然理解してくれないっ。お化けに取り殺されたら、どうしてくれるんだ。
「じゃあ、今夜だけ他のところにとまりましょうよ」
そう言うと、佐伯さんは「でも玄関開かないと思うよ」と言った。
「うそ! なんで!?」
私はもうパニックだ。お化けは夜出てくるって相場が決まってるのに、こんな真っ暗な中にいなくちゃいけないなんて。
「セキュリティシステムも止まってるから、電子錠も動かないと思う」
「えー……」
私は絶望で力なくうなだれる。
「寝ちゃえば一緒。寝れば?」
「一人で?」
私がそう返すと、佐伯さんが「……俺は別に二人でもいいけど」と答える。
とたんにすごいことを口走ってしまったのだと気がついた。
「えっと、そういう意味じゃなくて、あの、一人で部屋にいられなくて、その……」
支離滅裂な言葉が出てくる。唐突に、お化けが見えるかもという恐怖は遠のいて、今この暗闇に佐伯さんと二人きりでいるということが、大問題になってきた。
「じゃあここで寝れば?」
佐伯さんが作業ルームの入り口と反対方向へ進むと、ガラッと引き戸を開けた。スマホで照らすと、そこはおそらく佐伯さんのベッドルームだ。