ヒロインの条件
胸のドキドキも布団の中にこもって、全部佐伯さんに聞かれてしまう気がした。それは恥ずかしすぎる。すると、向こうを向いていた佐伯さんが、くるっとこっちを振り向いた。
胸の騒がしさが高まった。
外の明かりだけで見る佐伯さんは、やっぱり本当に素敵だ。髪はセットされてないし、ただのTシャツを着てるだけだし、それでもやっぱりすごくかっこいい。
「怖くない?」
佐伯さんがたずねたけれど、その声がどことなく甘くて、いつもと違う気がする。
「怖くないです」
私の声はどちらかというと気が張っている感じだ。
「じゃあおやすみ」
佐伯さんはそう言って目を閉じたので、私も佐伯さんに背中を向けて目を閉じた。目を閉じたけど、ドキドキはおさまらない。むしろ大きくなっている。
境界線はあるとはいえ、一つのベッドで布団を分け合うなんて、眠れるわけがない。ぎゅっと目を閉じて羊を数えようと思ったが、羊の合間にどうしても佐伯さんが出てきてしまう。
ああ、ほんと、胸が……死んじゃう。
突然耳に風が当たって「きゃっ」と短く悲鳴をあげた。耳を押さえて風がきた方向を振り返る。
佐伯さんが肘をついて、こちらを見ている。
「境界線は超えてない」