ヒロインの条件
「え? 何?」
私は耳を押さえたまま、わけがわからず佐伯さんの顔を見つめる。佐伯さんの顔がいつもよりずっと幼く見えて驚く。私が困惑しているのを楽しんでいるような表情だ。
それからまたすぐ、ふーっと耳めがけて吹いてきた。佐伯さんの息が手にかかる。
「ちょっ、だめですって、眠れませんっ」
私は布団の中で逃げ回った。
すると佐伯さんが「眠れるわけないだろー。何普通に寝ようとしてんだよ」と頬を膨らませた。
「隣に好きな子がいるっていうのに、境界線ひかれてんだぞ、こっちは」
「佐伯さんが引いたんですよ」
「引かなきゃ、あそこで朝までつったってなくちゃならないだろう?」
佐伯さんにそう言われると、ぐうの音も出ない。
「だって、一人でなんて眠れません。お化けが出ます」
「そんなに頻繁に出るの?」
佐伯さんは「ふーん」というように顎をあげて、こちらを見る。
「出ますよ、年に一回ぐらい」
「少なっ」
「その一回に強烈なのがくるんですっ」
私が力説してると、くいっと髪が引っ張れた。
「あっ」
見ると佐伯さんが私の髪を指に巻きつけている。
「どうして?」
私は慌てて自分の髪を引っ張り戻す。
「髪がこっちに入ってきたんだ。これは不可抗力」
私はのぼせたみたいに身体中熱くなりながら、自分の髪を両手で慌ただしくまとめる。