ヒロインの条件

「本当に?」
「本当」
私は布団の中を覗き込んで、境界線を確認した。視界に佐伯さんのスウェットの足が見える。私の膝と境界線ギリギリで触りそうだったので、私は慌てて足を引っ込めた。

「じゃあ具体的にどこまでなら入っていい?」
佐伯さんが目の前の紐を触る。太さ7センチほどのタオル地の紐の佐伯さん側から、指がゆっくりと中央へと移動する。

「……やっぱり紐の真ん中じゃないですか?」
「じゃあ地続きだったら、紐の真ん中ってことで。じゃあ空域は?」
「空域?」
私が尋ねると、佐伯さんの腕がひょいっと伸びて、私の首の後ろから髪をつまむ。

「あっ」
再び自分の髪を奪還すると、佐伯さんを「もうっ」とにらんだ。

「地面が自分の土地だったとしても、空まで自分のものだとは限らないよ」
「えー」
上から手が伸びてくるってこと? そんなの、ずるいーっ。

「じゃあそっちの空も、佐伯さんのものじゃないってことですよね」
「そうだよー、でもそっちは防戦一方じゃないかな」
佐伯さんは人差し指で紐をこちらへ押して来た。

「あ、それもずるい」
「ずるくないよ、正攻法で、侵攻してる」
私は紐が押しやられるので、それを元に戻そうとしたが、佐伯さんの指にどうしても触れそうになってしまうので、パッと手を引くたびにこちらへ紐が侵攻してくる。

「ひどい、絶対に負けちゃう」
いつのまにか陣地取りになってきて、私はムキになり始めた。こういうことには負けたくない。
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