ヒロインの条件

佐伯さんの顔が私の首筋にゆっくりと降りてきて、私は思わず逃げるように顔を背けたけれど、強く握られた左手を本気で振りほどくことはできなかった。

瞬きができぬまま、青白い天井を凝視する。

これ、どうしよう……どうしよう、これ。
頭の中がめちゃくちゃだし、まるで金縛りみたいに体も動かないし、ほんと、どうしたら……。

すると突然、耳にふーっとまた息をかけられた。

「きゃあ」
ベッドの上で飛び跳ねた。首を捻って佐伯さんを見ると、すぐちかくに佐伯さんの瞳があった。目があうと鼓動が加速する。

「耳、弱いな」
それからまた、ふーっと息を吹きかけられた。

「やっ、ちょっと、ダメそれっ」
私は必死に佐伯さんの下から逃れようとしてなんとか腹ばいになったが、耳を追いかけるみたいに息を吹きかけてくる。

「くすぐったい、やめてー。ほんと、お願い、やめてー」
逃れようとするたびに引っ張り戻されて、連続で耳に息を吹きかける。もうお腹がねじれて痛くなってきて、息も絶え絶えに笑って叫んだ。

もう限界だ!
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