ヒロインの条件

私はそっと振り返った。佐伯さんももぞっと動いて、それからこちらをちらっと見る。

二人とも眠れないーー。

佐伯さんは一つ小さく息を吐くと、こちらに向きを変える。私も佐伯さんの方へ体を向けた。

「……ここが境界線。そちらへは行かない」
佐伯さんはそう言うと、ラインぎりぎりのところにまるで壁に手を当てるみたいに手を出した。薄ぼんやりと手のひらが見える。

本当にどうしてそんなことをしたのか分からないけれど、私もそっと手を出して境界線ラインに手を当てた。手のひら同士がかすかに触れ、それから指と指が境界線を少しだけ超えて、曖昧に絡ませる。

指先がジンジンする。

「好きだよ」
「……はい」
私は初めて素直にそう頷いた。

「おやすみ」
佐伯さんはきゅっと私の手を握ると、境界線上に手を乗せ、目を瞑る。

「はい」
佐伯さんに手を握られながら、私もゆっくり目を閉じた。
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