ヒロインの条件
佐伯さんのことばかり考えてる。上の階にはもう佐伯さんがいるのかと思うと、いつのまにか胸がドキドキ言い出す。
私はいつも通り「パンッ」と両頬を叩いて、気合をいれた。だってこのままじゃ全然仕事ができない。明日は週末で、千葉との約束がある。こんな気持ちで千葉に会っていいんだろうか。
しばらく毎朝のルーティンであるデータ入力をしていたが、経理部長が「みんな」と声をかけてきた。経理部の面々が顔を上げる。
経理部長の隣には、男性の経理部長と同じくらいの高身長の、髪をショートにしたすらっとした美人が立っていた。
「初めまして。本日より管理本部長に就任いたしました、坂上美鈴と申します。宜しくお願いいたします」
一礼するその姿も美しく、私は思わずほわーっと見惚れてしまった。
坂上本部長はニコッと笑うと、颯爽とその場を後にする。すごく雰囲気のある人で、憧れちゃうな。
しばらくざわざわと美人管理本部長について噂話をしていた経理部の人たちは、また経理部長の「こほん」というわざとらしい咳払いで静かになった。私も再びパソコンに向かい始めたとたん、内線が「ぷるる」と鳴った。
「はい、野中です」と受話器に耳を当てたら、「やばい! どうしよう! ちょっとっ」と、突然がなる西島さんの声が飛び出してきた。
「西島さん?」
「大変!」
西島さんはかなり動揺しているらしい。内線にも関わらず声が大きい。
「どうしたの?」
「どうしたも、こうしたもっ、新しく入社したっていう美人が挨拶にきたんだけど、あの人が塩見さんの片思いの相手だと思うっ!」
私は受話器を右手に、その勢いに面食らった。