ヒロインの条件

「……まさか」
「本当! 私の洞察力をなめんな!」
とうとう、言葉遣いも悪くなってきている。でも『片思いの相手』は私なんだし……そんな馬鹿な。

「ちょっと来て!」
「今?」
「そう、今二人が話してるから、そこ見れば納得するから!」

あまりにも興奮している西島さんを拒否することもできず、もちろんなんだか不安な気持ちもむくむくと持ち上がってきて、私は業務時間にも関わらず「ちょっと……」と言葉を濁しつつ立ち上がった。具合の悪いと思っている周りは、特に咎めたりしない。

私は小走りに経理部を飛び出して、システム管理部まで階段を駆け上がる。

鉄製の扉を開けて廊下に出ると、西島さんが待ち受けていた。顔が驚きと、多分、失望に歪んでいる。パッツンの前髪が乱れているのを見て、ただ事ではないと感じた。

「見て、あそこ」
西島さんはシステム管理部の扉からこっそり中を指差した。

そこには通路途中で話す二人の姿があった。二人とも高身長で、なおかつ美形なもんだから、どうにも絵になる。

「喋ってるだけ……」
そう言いかけた私を、西島さんが「違うって。第一声が『久しぶりね』だったんだよ」と遮った。

「知り合い?」
朝の夢みたいな気持ちが一気に冷えた。不安が明確な形になっていくのを、必死に抑えようとしたけれど、どうしてもいろいろ想像してしまう。

「知り合いだけじゃない。だって塩見さんの顔見て。あの優しい塩見さんが、ずっと怒ったみたいな顔になってる。いや、怒ってるっていうよりも『何も感じてません』っていうことをアピールしてるような……わかる?」
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