ヒロインの条件
お昼休み、案の定西島さんがランチに誘いにきた。西島さんはもう話したくて話したくて仕方がないという様子なので、全然食欲もなかったけれど、誘いに「うん」と頷いた。二人の姿を見つけた山本さんも「なになに?」と寄ってきて、結局三人で食事に出ることになった。
会社から少し歩いたところにある、パスタのお店に行った。この季節にオープンテラスで食べるのは、とても気持ちがいい。私はない食欲を振り絞って、なんとかお腹におさめた。
「それはまずい」
山本さんは眉を顰めて腕を組む。昨日、佐伯さんに本気でモーションをかけるといっていたからか、結構真剣にショックを受けているように見えた。
「片思いの相手がすぐそばにいるなんて、なかなか忘れられないもんだよね」
「そう思います」
西島さんと山本さんは、佐伯さんの件に関して協力タッグを組んだように見える。ふと疑問に思って「西島さんって、佐伯さんのことが好きなの?」と訪ねた。
西島さんはぼっと顔が赤くなって、それから「違う!」と力強く言い切った。
「私は憧れ。好きとか、そういうのおこがましいから」
「おこがましいって、何よ?」
山本さんが少し怒ったような声で言った。
「恋愛に、上下とか階級とかない。好きになったら好かれたい。ただそれだけなの」
山本さんは、可愛い外見とは異なって、発言はすごく男前だ。思い切りがいいし、芯が通ってる。
「賛成」
右から声が聞こえて、私たちはそちらを見た。「坂上本部長!」
坂上本部長が、道路からテラスの柵に寄りかかりながら、こちらを見ていた。
ばくんと私の心臓が揺れる。電車酔いのような気持ち悪さが喉元まで込み上げた。