ヒロインの条件

「いい?」
坂上さんは綺麗に整えられた爪で、一つ空いてる席を指差さす。

「どうぞ」
山本さんが笑顔で頷くと「さんきゅ」と坂上本部長はレストラン入り口からテラスのほうへ回ってきた。

「わあ、おいしそう。一緒のにしようかな」
「日替わりランチです」
山本さんは、先ほど厳しい眉をしていたのに、今はちゃんと社交的に接している。

初夏の爽やかな風が吹いて、緑の匂いがかすめる。車が行き交う大通りの近くで、何やら緊張のランチとなりそうだ。

「お若いですよね」
西島さんが口火を切った。

「わかる? 28」
レモンの輪切りが入った水に口をつけながら、坂上さんが答える。

「同い年だ」
山本さんがびっくりした顔をする。「それで本部長だなんて」

「海外で仕事してて、その時の実績を買われたから。日本では塩見の会社で働きたかったんだよね」
坂上さんはそう言ってから、「おっと」と口を押さえる。

「しゃべるなって言われてたのに、やば、怒られる」

「大丈夫です。塩見さんが社長だって、この三人は知ってるんで」
西島さんがそう言うと、坂上さんは「よかったー。そうじゃないかと思ってた」とぺろっと舌を出す。

「どうしてです?」
西島さんが尋ねると「さっきシス管で会ったときの、塩見の顔で」と答える。

この人、すごく仕事ができる人なんだ。うっかりとか、ミスとかしない人で、きっと全部計算づくで話をしている。今この場にいるのも、もしかしたら計算して……。

私はごくんと唾を飲み込んだ。
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