ヒロインの条件

「野中さん、心ここにあらず?」
鈴坂さんの声がして、瞬間、現実世界へと意識がもどった。周りを見回すと、私を含め4人いるこのシマの全員が私に注目している。

「すっすみませんっ」
ばっくんばっくん言ってる心臓を必死になだめて、笑顔を見せて謝った。

ああでもどうしよう、気になる。すごーく気になる〜仕事にならない。

なんとかかんとか午後の伝票を処理し終えると、スマホをそっとポケットに忍ばせて立ち上がり、さりげない様子で給湯室まで早足で歩いていった。早速もう一度西島さんにラインを送る。

『入社してから、社長の顔って見たことある?』
そう打つと、ものの十数秒で返事がもどってきた。システム管理室は一人一人がパーテーションで区切られているので、割と自由にスマホが使えるのだ。

『ないよ。社員の大半が見たことないんじゃないかな? 秘書と役員ぐらいは知ってると思うけど? っていうか、なんなの?』
『社長らしき人に会った気がするから』
『へえ、いいなあ』
西島さんがそんなことを言うなんてめずらしい。噂好きという印象がないからだ。

『天才プログラマーなんだよ。名前だけは本当にいろんな雑誌に掲載されてる』
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