ヒロインの条件
夢と現実をふわふわと行ったり来たり。誰かに抱えられているような、ゆらゆらと揺れている気がする。扉を開く音がしてから、まぶたの裏が少し明るくなる。電気がついた、みたい。
ふわふわの場所に降ろされて、私はうーんと寝返りを打った。ああ気持ちいい、体がぴーんと伸びた。
「水、飲む?」
「水?」
私がうっすらと目を開けると、目の前に佐伯さんの顔があった。蛍光灯のついた明るい部屋にいる。
「あれ、マンション?」
「まったく、そんなに弱いのによく外で飲もうっていう気になるよな」
ちょっと怒ったような口調で言う。私は「へへ、すみません」と頭を下たら、とたんにくらくらして、思わず笑い出してしまった。
「酔いすぎ! なんでこんなに飲ませるんだよ、だからあいつには会わせたくなかったんだ」
その言い草に、かっちーんとくる。かつて学校で不純異性交遊しまくってた相手のことを、そんな風に言って! そこに愛はなかったのか!
「ケダモノッ」
「……は?」
佐伯さんの驚いた顔が面白い。もっと、ぎゃふんと言わせてやる。
「いたるところで、やりまくったって言ってました」
「はあ?!」
「学校って勉強するところです。そこで! そんなところで! 勉強せずに何してたんですかあ〜」
佐伯さんが頭をかかえる。
「……あいつ、もうほんと、どうしてくれんだよ」