ヒロインの条件
「ここ、入れてます?」
私は佐伯さんのTシャツの胸ポケットに手を入れる。「あれ、今日は入ってない」
「入れないって」
「入れてたって言ってた」
「それは昔の話で」
お手上げというように、佐伯さんが髪をかきあげる。ははは、ちょっとは困ればいいんだ。私はすっごく傷ついたんだもの。
「私はそんな経験、全然ありません。知ってると思いますけど〜。だから教えてくださいよ、どうやってするんですか? 学校ってベッドないじゃないですか。できないですよねえ」
「ストップ、この話もう終わり」
佐伯さんの口調がちょっと変わる。でも私は止められない。
「保健室とか? でも保健の先生どうするんです?」
「ストップ」
「私は今までそんな経験、ひとっつもないです。ゼロ! 私はそういう対象じゃないんですよっ」
「いいから、もうやめろよ」
「佐伯さんも今アレを持ってない。じゃあそういうことです。誰でもオッケーの佐伯さんも、私にはできないってことでいいですね!?」
私は、次から次へと考えてることも考えてないことも全部ぶちかまして、ふぅと息を吐く。言っても言っても足りないくらい、私はショックだったのっ。