ヒロインの条件
「ええ?」
はあはあと肩で息をしながら、呆然と自分のアパートを見つめる。目の前に傾いたアパートがあった。赤い軽自動車がアパートの一番右端の部屋に突っ込んで、木造アパート自体が大きく傾いているのだ。油臭い匂いがその辺に立ち込める中、運転者と住民が道路の前でやっぱり呆然とこの光景を見ている。
「うそでしょ」
私はよろよろとした足取りで、住民の輪へと歩みよった。私の部屋は無傷だけれど、傾いている。中のものは大丈夫かもしれない。
私が外階段を上ろうとしたとたん、「お嬢ちゃん、危ないからやめなって」と住民の一人に腕を掴まれた。
「だって、どうしましょう」
私はそのおじさんをまんまるな目で見つめたが、おじさんも「どうすんだよなあ」とため息混じりの返事を返す。
ほんと、どうしよう……。