ヒロインの条件
条件2ー同居する

(1)


翌日半休をもらって、なんとか荷物だけは手元にもどってきた。今日は季節外れの夏日になるのかもしれない。太陽が真っ黄色で嫌に目にジリジリするのは、究極のストレスと寝不足のせいだと思う。

私は大きな紙袋を二つ引きずって、午後二時にはなんとか会社へたどり着いた。瓦礫からひっぱりだしたデニムとTシャツというひどい格好で、品川の綺麗なビルへと入る。

とにかく自分のロッカーへこの荷物を入れよう。今夜はビジホかネカフェか……でも引っ越したばかりで貯金なんかないし、いつまでこの生活が続けられるかな。

結構楽観的なこの私でも、この絶望的な状況にため息がでる。安易にも「次は同居か政略結婚じゃない?」とかバカみたいなことを言っていた自分が、死ぬほど腹立たしい。両親は私の自立をきっかけに田舎へ移住してしまったため、住み慣れた実家はなくなってしまったし、柔道仲間はまだ学生っていう子も多いから、自分でなんとかしなくちゃいけないのに。

女子更衣室の小さなロッカーに紙袋をぎゅうぎゅう詰めて、気力を振り絞って制服に着替える。寝不足のせいで目の下は真っ黒なくまができ、きつい顔立ちがさらに凶悪に見えて、気がめいった。

経理部に出て行くと、鈴坂さんが心配そうに寄ってきた。
「無理に出なくてもよかったのに。大丈夫?」

私は力なく頷いて「はい、まあ」と答えた。

「総務に一応連絡しといたからね」
「ありがとうございます」
「住むところあるの?」
「なんとか……」

自分でそう言いながら、なんとかなるのかな? という疑問が混みあげてくるが、とりあえず仕事をしなくちゃお給料がもらえない。私は目の前のキーボードを無心で叩き始めた。

これはジョギングと同じくらい効果があった。頭の中が空っぽになり、ともすると泣きそうになる状況を忘れさせてくれた。いつもの倍のスピードで伝票の処理をして、未処理ボックスが空になると悲しくなるという不思議な現象が起こり、思わず笑ってしまいそうになる。
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