ヒロインの条件
そこに内線が鳴って、私は受話器を取った。
「はい、野中です」
『……佐伯です』
その一言で、私はばくんと胸が爆発したみたいになった。どっと瞬時に汗が流れ出てきて、受話器を握る手のひらが濡れる。
「は、はいっ」
背筋がピンと伸びて、声が一段階高くなった。
『事故のこと聞いたけど』
「はいっ」
どん底だった私の気持ちは一瞬にしてやウキウキになったけれど、それを出さないようになんとか冷静を装う。
『……あのさあ』
不思議なことに、内線の向こうの佐伯さんがなにやら言い淀んでる。私は受話器をぐっと握りしめて、佐伯さんの次の言葉を待った。
でも一向に話さない。
「あの?」
『うまく言えないから、とりあえず今8階にこれる?』
「わかりました」
通話が切れる音の後、しばらくプーと音がする受話器を見つめた。
これはもしや同居フラグじゃなかろうか。
「まさか」
つい声が出てしまって、鈴坂さんんと目が合う。でも今日はひどい様子の私を気遣ってか、突っ込まれなかった。