ヒロインの条件
「大丈夫です!」
私は驚いて言った。こんな風に女の子みたいに扱われたことなど、今まで一度もなかったのに。この手で何人もの男の人を投げ飛ばしてきたから、紙袋ぐらいたいしたことない。
「重くないです。私鍛えてるんで」
そう言いながら、佐伯さんから紙袋を取り戻そうとしたとき、「こんくらい野中には軽いってことは知ってるけど、でも紙袋は二つあるんだから、こっちの方が効率的だと思わない?」と言われ、さっと紙袋を私の手から遠ざけられた。
それからスタスタ大股で歩き出したので、私は慌ててその背中を追っかける。なんだかこそばゆい。
佐伯さんって、私がいくら強くても、荷物を半分持ってくれる人なんだ。
陽が伸びてきたから、外はまだ明るい。佐伯さんはビルから出てくる会社員たちに混じって歩く。中には『ブライトテクノロジー』の社員もちらほら見かけたが、誰も佐伯さんを気に留めない。本当に顔を知られていないのだ。
佐伯さんの道路に伸びる長い影を踏みながら、私も大股で付いて行った。駅とは反対方向なので、どこかでタクシーにでも乗るのかと思ったが、佐伯さんは「ココ」と歩いて5分ほどのマンションを指差した。
「うわ」
私はタワーマンションを見上げて、声をあげた。都心のこんな場所のマンションに住む人ってどんな人かなって思ってたけど、佐伯さんみたいな人が住むんだ。一階に大型スーパーが入っていて、2階はなんと保育園、住居は3階かららしい。
「3階」
そう言うと絨毯が敷かれたエレベーターに乗り込んだ。
「俺、高いところ苦手」
身長165の私が見上げるくらいの高身長の男性が言うから、なんだか可愛い気がする。