ヒロインの条件
佐伯さんが一つずつ部屋を案内してくれた。広い玄関の左側に10畳ほどの洋室とウォークインクローゼット、その隣は佐伯さんの部屋であるマスターベッドルーム、玄関から短い廊下を右に曲がるとランドリールーム、バスルーム、トイレ、パントリーがあり、まっすぐ進むとリビングだ。
30畳ほどのリビングダイニングの一面はすべて窓で、窓から外を覗くとベランダ、その向こうに2階にある保育園の、上階の三倍はあろうかというルーフガーデンがちらっと見えた。
リビングのすぐ脇に小さな引き戸の奥は、佐伯さんの作業ルームらしい。
「ここ使って」
佐伯さんは最初に紹介してくれた、玄関左脇の部屋をくれた。部屋の入り口脇に、私の紙袋を置く。そこはすでにベッドと机、それから壁一面の本棚が備え付けられていた。大きな窓からは、暖かな日差しが差し込む。
「自由に使って」
ベッド脇に紙袋を置いて、佐伯さんが言った。
「そこ、ウォークインクローゼットだから」と指差した先を覗き込むと、ここだけで生活できますというような広さだ。この部屋は、ついこの間まで誰かが住んでいたかと思われるぐらい、整えられている。
「ありがとうございます! 一社員にここまでしてくださって」
私は感謝を込めて頭を下げた。「お金が貯まったらすぐ出ていきますので」
顔をあげると、扉枠にもたれ腕を組みながら、変な顔をしている。
「あのさあ、一社員だからしてるわけじゃなくて……わかってる? 俺、告白したんだけど」