ヒロインの条件
一人おしゃれな部屋に取り残されると、私は力が抜けてドスンとベッドの上に腰を下ろした。これからあのかっこいい人と一緒に暮らすって……。告白はホンモノ……。
「しんじられないな」
私はキョロキョロ部屋を見回した。
もしかしたら、ドッキリとか。そうだ、そんなテレビ番組あるよね、騙してその様子を放送するやつ。いきなりヒロイン設定になったら?みたいな、そんな企画じゃないの?
私は立ち上がって、本棚の隅や、カーテンの裏など、カメラが隠してないか探してみた。
「ない」
私は首をひねる。じゃあ佐伯さんの言ってることは、本当なのかな? それともやっぱり夢か。
よくわからないけれど、アパートがなくなってしまったのは本当だから、しばらくここでお世話にはならなくちゃならないんだよなあ。
「ま、いっか。ヒロイン設定楽しも」
私は紙袋をひっくり返して、がれきのなかから救助できた、いくつかの衣類と漫画を眺めた。バイト代やお給料をつぎ込んでたくさん集めた漫画も、ぐちゃぐちゃになってしまって、本当にがっかりして泣きたくなってくる。
少ない荷物をクローゼットに入れたりしていると、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。私が部屋から出ると、ちょうど佐伯さんがピザを受け取っているところだった。
「払います」
そう言ったが、「いいって」と佐伯さんは首を振った。
「それよか、早く思い出せ」
「……難題ですね」
思わず私が呟くと、「そこまでかあ」とがっかりした様子を見せた。リビングを通って、アイランドキッチンにピザの箱を置くと「飲む?」とシルバーの冷蔵庫を開けて、ビールを取り出して見せた。
「いいんですか?」
「いいよ、俺も飲む」
佐伯さんはビールの缶を二つと、ピクルスの瓶詰め、燻製チーズを出して、パッケージのまま私にひょいひょいと渡した。