ヒロインの条件
「じゃあ、貸す」
笑いを含んだ声が聞こえて、ハッと我に返った。あれ、いつの間にか心の声が出ちゃってた? 見ると佐伯さんがニヤニヤしてる。
「あ、嘘です! 違います!」
私は慌てて首を振ったけど「アルコール、弱いな」と佐伯さんはニヤニヤして、ビールを一口飲んだ。
「はあ、すいません」
「別にいい。おもしろいから」
佐伯さんが言う。
そこでふと『おもしろい』って、好きな女の子に言う言葉じゃないよね、と考えた。『好き』って友情の『好き』かな。それなら合点がいくんだけど。
熱々のピザを食べながら、佐伯さんのことを観察する。どう考えても私を『好き』って、ありえない気がした。
「あのー、私ってコネ入社なんですか?」
「俺はなんもしてないけど」
佐伯さんはピクルスの瓶に手を伸ばした。「基本、経営のことはノータッチだし」
「だって、社長でしょ?」
「名前だけ。実際はおじさんが、ああ、副社長が俺の叔父にあたるんだ、そのおじさんがやってる」
「だから最終面接にいなかったんですね。私、最初気づかなかったです」
「うちの会社の、誰も気づかないんじゃない?」
佐伯さんはしれっとそんなことを言う。それって社長としてどうなんだろう。