ヒロインの条件
「なんか次元が違う……」
私も目をつぶり、柵にがしゃんと頭をぶつけた。
「接点、どこにもないですよねえ?」
そう言いながら何気なく目を開くと、佐伯さんと目が合った。
お互いに柵に頭をもたれさせたまま、意外に近い場所に佐伯さんの顔がある。私は思わず笑いを引っ込めた。佐伯さんの頬からも笑みがゆっくりと消えた。
どくん、どくん、どくん、どくん。
胸の音が耳の中に響いて、くらくらしてきた。
柵の下の道路から、プワーッと一つクラクションが鳴る。ゆるく吹いていた風が突然止まって、ここだけ時が止まっている。
目をそらしたいのに、吸い寄せられるみたいに、佐伯さんの瞳から目が離せなかった。
佐伯さんが口を開いた。
「接点はあったよ。野中には繰り返される日常の一コマにすぎなかったかもしれないけれど、野中に出会ったことで俺の生き方、考え方が突然ひっくり返った」
佐伯さんの手が私にそっと伸びると、びくんと震えて無意識に身体がこわばる。その一瞬で、佐伯さんは伸ばしかけた手を引き戻した。
心臓がいたい。早いというよりも、一度に大量の血液を全身に押し出しているような感覚で、ちゃんと酸素を吸えていない気がする。
「空気が冷たくなってきた。部屋入ろっか」
佐伯さんはよいしょと立ち上がると、缶ビールとピザの箱を持って、部屋へと戻っていく。
私は柵に頭をぶつけたまま、全然動けない。両手で頬を挟んで、ギューッと手のひらを押し付ける。頬も身体が熱い。すごい、イケメンの威力って半端ないんだ。あんな風に目があっただけで、身体が意思とは関係なく火照ってくる。
「恥ずかし」
意識してるって、もろバレしちゃったかも。まだ佐伯さんとどこで会ったかも思い出せないのに……。