ヒロインの条件
西島さんはぐいぐいと私の腕を引っ張って、女子トイレへと引き込んだ。それから誰も個室に入ってないことを確認すると、そっと私に顔を寄せて小さな声で尋ねた。
「ねえ、社長の顔って、どんな?」
「えっ?」
私はおどろいて大きな声を出してしまい、せっかく小さな声で話していた西島さんは「あちゃ」というように苦笑した。
「ねえ、ちょっと静かにって。秘密で聞きたいの」
「社長の顔を? なんでー?」
私はしらじらしくそう言った。
西島さんはきゅっと私の袖を引っ張ると、さらに声を潜めた。
「今日配属になった人知ってる? 経理部にも行ったんだけど」
「う、うん」
あれ、もしかしたら……。
「塩見さんって言うんだけど……すごいの、あの人。私の後ろの席に座ってるから、ちらっと画面が見えたんだよね。そしたらさ……すごく高度な開発プログラミングをしてて、シス管ってプログラミングもできるけど、それよりも運用面での技術が重要視されるわけ」
「言ってる意味が、全然わかんないよ」
西島さんが宇宙語をしゃべってるので、私にはちんぷんかんぷんだ。
「ああ、ごめんごめん。あのね、シス管にいるような人じゃないってこと。もっと開発者側なんだよ、それもとびきり優秀な。それなのに平社員で私と階級一緒だし、出身大学を聞いてもなんか笑ってごまかされて……怪しいの!」
「はあ」
私は西島さんの話をただうなずくだけだ。