ヒロインの条件
マンションへ帰ると、カードとパスワードの鍵に四苦八苦しながらも、なんとか部屋に入ることができた。自動的に明かりがつき、ビクッとしてしまう。
自分の部屋に荷物を置くと、リビングに入って「さて」と腕を組んだ。
夜ご飯をどうしよう。『もうすぐ帰る』って言うのなら、きっとここでご飯を食べるんだろうな。できるヒロインなら絶対に手料理だけど……私は何もできないし、かといって椅子に座って待ってるのもなあ。
キッチンのシルバーの冷蔵庫をパカンと開けてみると、昨日のピザが数切れ残っており、その他はビールとミネラルウォーター、あとは眠気覚まし用のカフェイン飲料のようなものだけ。
「チャレンジしてみる?」
口に出して言ってみると、俄然やる気が出てくる。性格上「チャレンジ」っていう言葉が、かなり好きだ。私はすぐにスマホでレシピを検索すると、お財布を持って部屋を飛び出した。
餃子だ! 今日は餃子にチャレンジしよう。
1階のスーパーでレシピ通りの品物を買って、超特急で帰ってくる。腕まくりをして、料理をスタートさせた。
最初のスタートダッシュはよかった。キャベツを洗って、ボールにひき肉を入れて調味料を入れるまでが、すごくスムーズにできて、われながら才能があるんじゃないかと思ったが、包丁を持った瞬間、すべてがピタッと止まってしまった。
ネギとキャベツを細かく切らなくてはいけないのに、うまく切れない。クッキング動画ではタンタンタンと軽やかに包丁が動くのに、私はその50倍ぐらいの時間がかかる。これでは一向に終わらない。