ヒロインの条件

「だから、やってみたい」
私の手元をみて、いびつなキャベツの残骸を見下ろすと「包丁なんて使わなくてもいいんじゃない?」と提案してきた。

「フードプロセッサーがあるとか?」
「俺料理したことないから、あるわけないよ」
そう言って、キャベツを大きくちぎり始めた。

「大きすぎ……」
「ヘルシーになるかも」

言われたので、私も包丁を置いてキャベツをちぎり始めた。

「ネギはハサミで切ればいいじゃん。ハサミはあるよ」
「頭いいですね」
私は尊敬の念を込めて、佐伯さんをみた。

「もっと褒めて。褒めて伸びる子だから」
そう言って笑った。

時間をかけてなるべく小さくちぎり、ネギを入れてぐるぐるタネをかき混ぜる。

「そうだ、今日なんで突然システム管理部にいたんですか? わざわざ名前を変えて」
「ん?」

佐伯さんがちょっと首をかしげる。
「野中が働いてるところを、ちょっと見てみたいなあって思って」

突然そんなことを言われて、ブワッと顔が熱くなる。顔を隠したいが、両手がタネでべちゃべちゃで隠せない。

「社長なんですから、普通に社内を歩けばいいんじゃないですか?」
極力普通の口調でそう尋ねた。

「俺が社長だって知られたくない」
「どうしてです?」
「めんどくさいかな」

私が思うに、偽名で他部署の仕事をする方が、よっぽどめんどくさいのに。
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