ヒロインの条件

「でももう、ばれてますよ」
私は餃子を包もうと、手のひらに皮を載せる。

「うそ! まじで?」
佐伯さんは心底驚いたというように目を丸くした。

「西島さんが、疑ってました。社長じゃないかって」
「ほんと? あなどれないな、西島」
ばれたって言われて、なんだか嬉しそうにしてるのが面白い。

「でも疑ってるだけで、確証はないらしいです」
「へえ、じゃあもっと気をつけないと」
佐伯さんは明らかに包めそうもないぐらいのタネの量を、皮の上に置いてる。

「多すぎません?」
「いけるよ」
まるで粘土細工をしてるみたいに、コネコネしながら、タネがはみ出してしゅうまいみたいな餃子ができた。
「ほら、いけた」
その言い方がやっぱり大の大人にしては可愛くて、ははっと笑い声をあげてしまう。

「笑ってるけど、野中のも皮が破れてる」
「これは、キャベツがやっぱり大きすぎて、破れちゃったんだから、仕方ないです」

二人でなんとか20個ほどの餃子を作り上げたのは、もう11時近くになっていた。

白いダイニングテーブルに並べられた、悪戦苦闘した餃子と昨日のピザ、それからビールの夕食が始まった。

「やっぱり包丁を使えるようにならないと、料理は上達しないですね」
おはしで餃子をつまむと、皮はカチカチでなんだか焦げてる。「焼き方もむずかしい」

「フードプロセッサー買おうか」
ビールを一口飲んで、佐伯さんが言う。

「みじん切りしかできないですよね、それ」
「そうだな」
口をもぐもぐさせていた佐伯さんが「で、思い出した?」と尋ねてきた。
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