ヒロインの条件
私は思わず口をへの字にする。お兄ちゃんの友達かもと思ったけれど、まだ確認していない。
「まだ、です」
そういうと「はやくしろー」と佐伯さんが私の足を軽く蹴ってきた。
「でもですねえー、むずかしいんです」
私はごまかすようにビールを一口飲む。「ヒント、そろそろくださいよ」
そう言うと、佐伯さんの目が光って、ニヤッと笑う。
「今日、すっごいヒント出したのに」
「え? いつ!?」
「会社で」
私は真剣に今日の出来事を思い出してみたけど、なんのとっかかりもない。
「えー、これって言ってくれないとわかりません」
私は憮然とした顔で、腕を組んだ。
「それじゃつまんないけど、オッケー、今週中にもっとヒントを出すよ。わかりやすく」
佐伯さんはそう言って、皮が破けてキャベツが飛び出た私の作った餃子を口に放り込んだ。
食べ終わると12時をすぎていたが、楽しかったからかぜんぜん疲れていない。佐伯さんは「風呂どうぞ」と言って、食器を片付け始める。
「洗いますよ」
「じゃあ、食洗機に入れてくれる? 俺ちょっと部屋にこもるから」
私は「ん?」と首をひねる。部屋にこもるって……。
佐伯さんは、あははと笑うと「部屋で仕事するだけ」と言った。佐伯さんはうーんと伸びをして、リビング脇の作業室へと入っていく。
「あ、あのっ、明日の朝起こしますか?」
とっさにそう質問していた。
「一人で起きれるよ」
それからニコッと笑って、「おやすみ」と言う。
「おやすみなさい」
私もそう挨拶すると、作業室の扉が静かに閉まった。