ヒロインの条件
食器を洗ってお風呂に入り、部屋で一人になるとスマホ片手にベッドに寝っ転がった。借りたままのスウェットを着て寝転ぶと、なんだかもぞもぞする。やっぱり匂いが違うからか。
「お兄ちゃんに聞こう」
私は意を決してお兄ちゃんのトークを開いた。嫌味とか言われたらやだなと思ったけれど、佐伯さんのことを思い出すためには避けては通れない。
『こんばんわ。一つ聞きたいんだけど、佐伯さんって人、友達?』
もう遅いから返事は明日かと思ったが、すぐに返信がきた。
『深夜だぞ』
『ごめん。でもどうしても知りたくて。佐伯さんは友達?』
『誰だそれ』
そう返事がきて、私はがっかりした。お兄ちゃんの友達じゃないってことかあ。
『ごめん勘違いだった。またね』
そう送って終わりにしようと思ったのに、すぐに『お前、ちゃんと仕事してんのか?』と来た。
『してる』
『なんで事務員なんだよ、体育教師とか腕力使う仕事につけよ』
なんだろうなあ、友達や会社の人から「強いね」って言われると嬉しいのに、お兄ちゃんから言われるとカチンとくる。
『いいでしょ、別に』
『これまで積んできたキャリアを無駄にして』
『無駄にしてないもん、ちゃんとやれてるもん』
ああもう、これだから連絡したくなかったんだ!
『今楽しいんだから、ごちゃごちゃ言わないで。お・や・す・み!』
だめ押しで寝ているスタンプを送って、私はスマホを枕の下に入れた。