ヒロインの条件

その夜も、ずいぶん遅くまで佐伯さんは起きていたようだ。朝、洗濯と軽い掃除をしてから、私は出社した。
今日も佐伯さんはシステム管理部にいるのだろうか。あんなに夜遅くまで起きていて、それでいてちゃんと出社するなんて、体は大丈夫なんだろうか。

「なんか手伝えるといいんだけど」
そう思ったが、まったく手伝えるものがないのが悔しい。

私が席に着くと「おはよう」と営業事務の山本さんが、髪を軽やかになびかせてきた。今日もひときわ可愛くて、ほんと見とれちゃう。

「おはようございます」
私がそう返すと「あのね」と、山本さんはピラリと一枚の紙をて渡してきた。

それは『同期BBQパーティのお誘い』と書いてあるチラシだった。

山本さんは私よりも三つ年上で、同期でもなんでもないのにと、首を傾げて見上げると、山本さんはこちらがきゅんとなる程の愛くるしい笑顔で「塩見さんって、私と同じ年なの」と言った。

「だから、同期の集まりに塩見さんを誘おうって思ったら『会社に入ったばっかりなので、僕は新入社員と同期なんです』って言うから、そうだじゃあ、どちらも同期ってことでみんなでBBQしませんか?ってお誘いしたの」

「そうなんですか」
佐伯さんは新入社員なんかじゃないのに、しれっと嘘をつく人だなあと、私は感心してしまう。

「だから、三年目と新人合同で同期会しましょ。週末空いてる?」
「はい」
私は素直に頷いた。BBQなんて、すっごい久しぶりだ。

「じゃあ、シス管の西島さんにも連絡しといてね」
再び軽やかに山本さんは去っていく。
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