ヒロインの条件

そこは海辺近くのエリアだったが、海辺といってもコンクリートで固められ、柵が立てられているので降りて行くことができない。公園自体はとても大きく、海風が吹くと大きな木が幾重にも重なって、さわさわと音を立てていた。

20ほどの常設のテントが張られ、その下には木製テーブルが備えられている。日差しの中からテントの中に入ると、その暗さに目をパチパチさせる。

「飲み物ありがとうね」
山本さんが西島さんのビニール袋を一つ受け取ると、テーブルの上に置いた。

佐伯さんと目があうと、心臓がどぎまぎする。ストライプのシャツにスラックスというスタイルで、髪はセットしていない。昨日も深夜まで物音がしていたのであまり寝ていないというのに、そんなことを微塵も感じさせないのがすごい。そして今日は、黒縁のメガネをかけている。

「バーベキューセットはあっちで借りられるみたいだよ」
山本さんと同期の城島さんがいった。城島さんは営業部の男性社員で、売り上げはなかなか。スポーツマンタイプのがっしりした人だ。

「じゃあ、私行ってきます」
私はクーラボックスを下ろすと、そう言った。

「お願いできる?」
もう一人、山本さんの同期で総務部の森山さんが言った。森山さんは山本さんのように可愛らしい人で、ベリーショートで耳に赤いピアスをしている。

「わたしたちは食材の用意してるから」
山本さんが言ったので、「まかせてください」と笑顔を返した。

「僕もいこうか?」
佐伯さんが口を開くと、山本さんが「塩見さんにはお願いしたいことがあるんですよ」と引き止める。
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