ヒロインの条件

目の前に、スーツを着た男性が立っていた。思わず「わあ」と心の中で歓声をあげてしまうぐらいの、素敵な男性だった。くっきり二重の瞳は窓からの陽があたって少し茶色がかっているし、顎から首にかけてのラインは成熟した男性のようにしっかりとしていてい、黒髪は爽やかな感じに整えられている。

その男性が私をじっと見下ろしていた。

私はその視線から逃げるように、手元の漫画に目を戻す。

何? なんでこっち見てるの? 顔になんかついてるかな。

私は右手で顔中を撫で回したが、突然「気のせいかも」と思い直した。だってこの素敵な人が自分を見ているなんて、自意識過剰も甚だしいよね。そんなこと、あるわけない。

漫画の世界へ戻ろうとセリフを読もうとしたとき、「あの」と少しかすれた低い声で呼びかけられた。

私は目を丸くして、また顔をあげた。私の勘違いじゃなく、どうも本当に私に話しかけているらしい。

私は恐る恐る「はい?」と返事をした。

「ここ、いいですか?」
男性が同じテーブルの向かいの席を指差すので、反射的に「はい、どうぞ」と答えた。でもそれから周りを見回し、首をひねる。

たくさんのテーブルが空いている店内なのに、なぜわざわざ私と相席にするのかな?

男性は目の前の席に向かい合って座ると「ブレンドを一つお願いします」と注文した。私は訳が分からず、再び漫画を読もうとしたけれど、目の前の男性が気になりすぎてぜんぜん集中できない。

それにやっぱりずっと視線を感じている。男性から見られているようなのだ。
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