ヒロインの条件

「大丈夫ですよ、一人で」
私は日差しの中、公園のBBQ受付カウンターへと走った。小さなログハウスというようなカウンターにつくと、キャップのツバを深くかぶった男性スタッフがいた。

「すみません、10番テントのものですが、BBQセットを借りたいんです」
私が言うと、そのスタッフが顔を上げた。

「あ! 千葉!」
「あ! 野中!」
お互いに指差しあって、素っ頓狂な声を上げてしまった。それから一拍おいて、お互い笑い出す。

「偶然すぎるー。バイト?」
「そう」
千葉はキャップのツバをくいっとあげると、八重歯のある白い歯を見せて笑った。千葉は地元中学の同級生で、同じ道場に通っていた友達だ。高校は別になったけれど、たまに柔道の大会で顔をあわせるときがあった。

「久しぶりだね、お前就職した?」
「そう、会社に勤めてるんだよ。すごいでしょ」
そう言うと、千葉がははっと笑う。

「俺、浪人したからまだ大学四年だよ。就活しなくちゃなんだけど、どっかに就職できる気がしねーな」
「大丈夫だよ、なんとかなるって」
私が言うと、「相変わらず楽天的」とまた笑った。

手早く貸し出しの手続きをして「こっち」とカウンターの中から出てきた。小屋の横に、たくさんのBBQセットがおいてあって、一番手前のセットに10番という札をつけた。

「木炭ももっていくだろ?」
「うん」
「結構な荷物だから、一緒に持ってくよ」
「平気だよ?」
片腕にBBQセット、片腕に石炭の袋とトングや網の入った袋をもってみたが、やはり無理かもしれない。千葉が「持つよ、俺の仕事だ」とBBQセットを受け取った。

「今日は友達ときた?」
「ううん、会社の人と。同期会だって」
「へえ、楽しそう」
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