ヒロインの条件
千葉は高校で柔道をやめた。当時はそれがすごく寂しかったけれど、今は私もやめてしまったので、なんだか仲間意識がある。筋肉質だった肩周りは普通の男の人程度に戻っていて、髪も伸ばしておしゃれしている。公園でバイトをしているせいか、適度に日焼けしていた。
「お待たせしましたー」
私はよいしょっと袋を下ろす。城島さんと森山さんはいなかったが、どうやら水場へ行ったらしい。佐伯さんは山本さんの横で、パックからお肉を取り出していた。
「どこに置く?」
千葉が尋ねるので、私は日に当たらない一角を指差した。「ここお願い」
すると山本さんが不思議そうな顔で「知り合いなの?」と聞いてきた。
「はい、中学の同級生で、偶然に会ったんです」
「そうなの! 運命的だね〜」
山本さんは両手を胸の前で組んで、嬉しそうに言った。
「そうですね」
私は笑いながら、石炭をBBQセットの中に入れようと、袋を手に取った。
「柔道してた?」
佐伯さんが千葉に突然尋ねた。
「はい。もうやめちゃいましたけど」
はにかむように千葉が言うと、佐伯さんは「へえ」と言って微笑む。「強い?」
「野中の方が強いっす」
千葉は笑いながらしゃべり、それから「あれ?」というように佐伯さんを見つめた。