ヒロインの条件

「やっぱり野中さんは最強なんだね」
山本さんがにっこりしながら言った。

「じゃあ……」
名残惜しそうにこちらを見ながらも、キャップをとって軽く挨拶して去ろうとする千葉を、私は「待って」と引き止めた。

「ねえ携番変わってる?」
私はスマホをポケットから取り出しながら、尋ねる。

「変わってないけど、ライン教えるよ。ちょっと待って」
千葉もポケットからスマホを取り出し、それから「ん?」というように視線を上げた。

「どうした?」
私は首を傾げてその千葉の様子を見ていた。何か気がかりなことでもあるようなのだ。

「ちょい、こっち」
千葉は私を手招きすると、テントから少し離れてスマホを手に自分のラインを開く。そして思い切ったように「あのさ、さっき話しかけてきた男の人って、誰?」と尋ねた。

「え? 佐伯さん?」
つい本名が口から出て、私はあわてて口を押さえる。でも会社の人じゃないから大丈夫だよね。

「知らないな……じゃあ勘違いかなあ」
千葉が言うので私はピンときた。「もしかして、知ってるの!?」

「いやあ、見たことあるかもって思って」
千葉は頼りなげに言ってくる。

私は思わず千葉の腕をぐいっと掴んで「どこで見たの!?」と詰め寄った。

「……思い出せねーけど……どこだったかなあ。道場?」
「ほんと!?」
私の胸が高鳴る。もしかしたらどこであったかわかるかもしれない!
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