ヒロインの条件
「どこで勉強したんですか?」
今度は西島さんが前のめりで尋ねた。「入社したばかりなのに、うちのシステムをすごくよくわかってるんだなあって、この間思ったんですよね」
「小さいころから、好きだったんですよね。それでなんとなく」
「大学どこです?」
「東京大学です。研究職で行きたかったんですけど、誘われて今の会社に」
その答えを聞いて、私は「学歴詐称もしてる」と内心笑った。本当はマサチューセッツ工科大なのに。
「すごい東大なんて」
森山さんが目を丸くする。一方西島さんは解せないという表情だ。佐伯さんがマサチューセッツ出身だってことを西島さんは当然知っているから、その答えを期待していたのだろう。
「この会社はどんな感じ?」
反対に佐伯さんが質問し始めた。
「働きやすいよ」
城島さんがビールを飲みながら言う。「いい人ばっかりだしね。学歴もまちまちで、面白い。普通大卒とったりするけど、高卒も専門卒もいて、多分人柄を見て採用してるんだと思うね」
「そうそう」
森山さんが頷く。「ここの社長の経営方針が、おもしろいんだと思う」
私は思わず佐伯さんの顔をちらっと見たが、しごく平然としている。西島さんはじっと佐伯さんの表情を伺っている気がした。
「じゃあ俺はいい会社に入れたのかな」
「そうだと思いますよー」
森山さんがにっこり笑う。